日本昔話の旅71(東京都稲城市)
方言テキスト版
協力:稲城市立図書館
製作:公益財団法人伊藤忠記念財団
舌をぬかれたお獅子
秋の台風の季節になんと、 あっちこっちで豊作を願う風祭りがやんなわれんだ。 大丸の風祭りでは、 獅子舞が出て、 大変盛大にやんなわれてたんだ。
祭りが終えんと、 獅子頭は 近くの円照寺の土蔵に納めんのが ならわしになってたんだ。
ある年の夏のこった。 そん年は 雨が少なくって猛暑が続き、 井戸水までも涸れんありさまでよ。 村人たちは天を仰いで 雨の降んのを願ってたんだ。
円照寺には、 本堂のわきっちょに でっけい池があってよ、 いつも満々と水がたたえられてたんだ。 この池はお寺のたんぼに使うため池で、 どんなに雨が少ねー年でも 涸れんことがなかったんだ。
ところが、 そん年は不思議なことがおこったんだ。 夕方にはいっぺいに溜まっていた池の水が、 朝になんと完全に干上がって、 まったく残っていねーんだ。
こんなことが何日も続いたんで たんぼの稲は勢いがなくなり、 あと何日かしたら枯れてしまうんではねーかと 心配されんようになったんだ。
和尚は、 不思議に思って、 池んとこで一人で水番をすんことにしたんだ。
夜もふけてきたがよ 何も起こんねー。 和尚は昼の疲れがでて、 ついうとうとと眠りはじめてしまったんだ。
すんと そん時だー。
どっからか一陣の風が吹いてよー、 池の水がざわざわと波だっちまった。
その気配に眠りをさまされた和尚は、 池の向こうの岸にいる怪物を見て、 あっと声をあげちまった。
いっつのまにか、 寺の土蔵の風穴から抜け出してきた 獅子舞の獅子三頭が、 池のふちにしゃがんで 水を飲んでんじゃねーか。
うち続く日照りで、 さっすがの獅子どもも のどが渇たんでしょう。 池の水は みるみる底を見せはじめたんだ。
和尚は、 寺男を呼びに戻んと、 道具箱からでっけいくぎ抜きをもってきたんだ。
「こん水泥棒め、そこを動くな」
と叫ぶと、 和尚と寺男は、 いっきに獅子に襲いかけったんだ。 用意した縄で 三頭の獅子をしばりあげんと、
くぎ抜きで 順番に獅子たちの舌を 抜いちまったんだ。
舌を抜かれた獅子たちは 突き放されたんだが、 それからは いくらのどが渇ても、 池の水を飲むことができなくなっちまった。
それ以来、 円照寺の池の水は、 どんな日照りの年でも、 涸れんことがなくなっちまったということだよ。
おしめー。
舌をぬかれたお獅子
日本昔話の旅71(東京都稲城市)
稲城の昔ばなし紙しばい(稲城弁)
※「稲城の昔ばなし 改訂版」に収録されている「舌をぬかれたお獅子」の原文をもとに、 稲城弁に改訂したものです。
脚本:『稲城の昔ばなし 改訂版』
稲城市教育委員会教育部生涯学習課編
稲城市教育委員会発行
絵 :稲城市立図書館制作ボランティアみかん
指導:稲田善樹
音訳:音訳グループペア
協力:稲城市立図書館
製作:令和4年12月 公益財団法人伊藤忠記念財団