紹介している45冊の英語の絵本のうち7冊は、日本語版を伊藤忠記念財団の100冊リストに選書しております。このページではその7冊について、英語ならではの面白さや作者の小話などをコラムの形に纏めました。是非ご覧いただき、英語の絵本を手に取る際のご参考にしていただけますと幸いです。
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
『はらぺこあおむし』(もりひさし/訳 偕成社 1976)で有名なエリック・カールの1967年のデビュー作で、文は教育者かつ作家で、300冊以上の作品があるビル・マーチンです。
二人の作品には『しろくまくん なにが きこえる?』『パンダくんパンダくんなにみているの?』『こぐまくん こぐまくん なにみているの?』(いずれも おおつきみずえ/訳 偕成社、1992、2004、2008)があり、いずれもページをめくると質問の答えが絵で表現されているという形式になっています。
作品は、Brown Bear, Red Bird, Yellow Duckなど、色と動物が組み合わさったことばが2回繰り返されて画面いっぱいに描かれた動物に呼びかけるようになっています。ユニークなのは、「Blue Horse」。現実には存在しない青い馬が描かれているのは、カール自身が『えをかくかくかく』(アーサー・ビナード/訳 偕成社 2014)の「あとがき」で書いているように、ナチスドイツ占領下にドイツにいたカールの体験が元になっており、表現の自由を象徴しています。そして、多様な色の動物たちは、結末の多様な肌の色の子どもたちをすばらしいと感じさせることへの伏線となっています。
作品では、「What do you see?」が繰り返され、見ることの大切さが伝えられると同時に、答えは「I see … looking at me」となっており、自分を見つめる対象を自分自身も見ているという双方向のコミュニケーションが成り立っています。
色の魔術師と呼ばれるエリック・カールの作品は薄紙のコラージュの絵が鮮やかで、遠目がきくので、集団で楽しむことができます。文も単純で繰り返しが多く、それが適度なリズムを作っています。
日本語書名
「くまさん くまさん なにみてるの?」
著者:Bill Martin Jr
画家:Eric Carle
訳:偕成社編集部
出版社:偕成社
初版出版年:1984年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
「コロちゃん」シリーズで日本でも大人気のエリック・ヒル(1927-2014)が、息子のクリストファーのために最初に作ったのが『コロちゃんはどこ?』(まつかわまゆみ/訳 評論社1984)です。原書名はWhere’s Spot? で、犬のからだに丸い斑点があることからSpotと名付けられています。
「A lift-the-flap book」と名付けられているように、ふたやドアなどの部分を持ち上げたり開けたりすると、何かが出てくるという仕掛け絵本になっています。これもヒルが考案したそうです。
冒頭のページにサリーとスポットの大小のエサ入れが置かれており、サリーの「That Spot!」というせりふから、サリーがスポットの母親で、「あの子ったら」と言っているのがわかります。そして、サリーは、スポットを探し始めます。
ドアの後ろ?時計の中?のように、家の中の物を表す名詞と場所を示す前置詞が組み合わされた疑問文になっており、その繰り返しが楽しめます。そして、しかけを開くと、スポットの代わりにクマやヘビが出てきて「No」と言います。いつも母親に「No」と言われている子どもたちは、スポットがまんまと母親を出し抜いている様子が楽しくなります。そして最後はカメのヒントによってスポットの居場所がわかるのです。えさを食べるスポットに母親が「Good boy」とほめる結末は、子どもたちに満足感を与えます。
単純なことばと楽しい絵としかけを通してかくれんぼ遊びができ、母親の愛情を感じさせられるこの本が長い人気を誇るのにはうなずけます。
シリーズには、コロちゃんの誕生日にコロちゃんがかくれんぼの鬼になる『コロちゃんのたんじょうび』、コロちゃんが散歩しながらいろいろなところに頭をつっこむ『コロちゃんのおさんぽ』などがあります。
日本語書名
「コロちゃんはどこ?」
著者:Eric Hill
訳:まつかわまゆみ
出版社:評論社
初版出版年:1984年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
日本の子どもたちに人気の『サンドイッチ サンドイッチ』の英訳本。2021年4月現在、この「英語でたのしむ福音館の絵本」シリーズには『おつきさまこんばんは』(林明子/作)『きんぎょがにげた』(五味太郎/作)『たまごのあかちゃん』(かんざわとしこ/文 やぎゅうげんいちろう/絵)『どうぶつのおかあさん』(小森厚/文 薮内正幸/絵 以上、すべて福音館書店)があり、すべて米国出身で日本文学の研究者であるロバート・キャンベルが英訳しています。
小学校での外国語活動の入口も意図して出版された本シリーズは、「長く愛されてきた絵本から」選ばれており、絵を見ただけで、ことばが浮かぶぐらい読んできた子どもいると思われます。
パンの上に次々とサンドイッチの具材が載せられていく様子を「Let’s」を複数回使うことで読者がサンドイッチを一緒に作っているような楽しさを味わわせ、put、spread、cover、topなどの動詞によって、具材を重ねる様子が単調にならずに表現されています。具材の名詞は絵と対応しています。Yummy(おいしい)、 dig in(食べる)などの口語も使われ、楽しい雰囲気が作品全体から伝わってきます。
作者の小西英子さんは、「サンドイッチを作ろう!」(「絵本のたのしみ」こどものとも年少版2005年4月号折り込みふろく)で、パンと具材を重ねてそうっと切ると「その瞬間、思いもしなかった美しい断片が現れます。やわらかな白にはさまれ、ぎゅっと濃縮された明るい色たち!新しい表情との出会いには、新鮮な驚きがあります。そして、ドラマを味わうような喜びがあります。」と書かれています。この絵本の魅力を凝縮したことばで表現されている文章だと思いました。
日本語書名
「サンドイッチ サンドイッチ」
著者:小西英子 ※元が日本語
出版社:福音館書店
初版出版年:2008年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
英国パット・ハッチンス(1942-2017)の絵本は絵もことばもリズミカルで、幼い子どもの心をとらえて離しません。
『ティッチ』は、イギリスの古典的名作絵本で、シリーズは全17作品あり、本書は1作目です。日本では、ティッチの家族に赤ちゃんが生まれる『ぶかぶかティッチ』(いしいももこ/訳 福音館書店 1984)と、兄と姉のおもちゃをもらってティッチの部屋がごちゃごちゃになった顛末を描いた『きれいずきティッチ』(星川菜津代/訳 童話館出版 1996)が訳されています。
Titchはピートとメアリとティッチを比べるために単純な構文を繰り返し、big と littleを何度も使うことで、Titchの気持ちを巧みに表現しています。そして、結末で、tiny seed(ちいさな たね)が成長する(grew ×3回)姿に、小さいティッチが大きく成長する期待感が高まります。日本語では、翻訳の石井桃子が、grewの音をたくみに取り入れて「ぐんぐん」と表現し、「おおきく なりました」とわかりやすく結んでいます。
ハッチンスにはほかにも『ロージーのおさんぽ』『おまたせクッキー』『おやすみみみずく』『風がふいたら』『せかいいちわるいかいじゅう』などがあり、どの作品も、単純な構文で繰り返しが多く、絵から内容が類推できるため、英語を学びはじめた子どもたちが楽しめる作品となっています。
日本語書名
「ティッチ」
著者:Pat Hutchi
訳:いしいももこ
出版社:福音館書店
初版出版年:1975年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
ベーメルマンス(1982~1962)が1939年に出版した絵本です。日本では、『げんきなマドレーヌ』(瀬田貞二訳、福音館書店1972)のタイトルで訳されましたが、主人公のマドレーヌは、まさに元気な女の子です。パリの蔦のからむ古い屋敷は修道院、そこで修道女のミス・クラベルと暮らす12人は孤児たちでしょう。マドレーヌは、一番小さいのに、ネズミもトラもこわがらないし、スキーもスケートも得意です。盲腸炎で入院して、手術をしても元気なのですから、私たちは、マドレーヌから大きなはげましをもらいます。
作者にむすめが誕生して、その子が2歳半になったとき、妻と三人でアメリカからパリに旅行したことが、この絵本が制作されるきっかけを作りました。エッフェル塔、コンコルド広場、オペラ座……、絵本には、パリのいくつもの風景が描き込まれています。マドレーヌは、コールデコット賞を受賞した第2作『マドレーヌといぬ』(1953 瀬田貞二訳 福音館書店1973)をはじめ、たくさんの作品で活躍することになります。
『マドレーヌ』のシリーズは、日本では、まず、瀬田貞二訳の4冊が福音館書店から出版されましたが、その後、江國香織訳がBL出版から刊行されます(『マドレーヌのクリスマス』2000年ほか)。
日本語書名
「げんきなマドレーヌ」
著者:Ludwig Bemelmans
訳:瀬田貞二
出版社:福音館書店
初版出版年:1972年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
バージニア・リー・バートン(1909~68)が1942年に刊行し、アメリカの児童図書館協会がその年のもっともすぐれた絵本に授与するコールデコット賞を受賞した作品です。日本語版のタイトルを『ちいさいおうち』(岩波書店1954,1965)と訳したのは石井桃子ですが、むかし、いなかの丘の上に建てられた小さな家は、゛She゛と呼ばれています。゛She was a pretty Little House……゛ ちいさいおうちは、女性だったのです。
物語は、゛Once upon a time……゛(むかしむかし)と、昔話を語りはじめるように書き出されます。小さいけれど、しっかり丈夫に建てられた、この家は、何回も日がのぼり、日がしずむなかで、しあわせな時間をすごしていました。春夏秋冬の季節の移り変わりも、さまざまな景色を見せてくれました。
゛One day the Little House was surprised ……゛ しかし、ある日、いなかの道に自動車が走ってきて、静かな時間が大きく動き出します。道路が建設され、たくさんの家が建てられ、やがて、鉄道が通り、ちいさいおうちは、町のなかに埋もれていきます。都市化が進み、近代社会が発展していくのです。子ども読者は、ちいさいおうちといっしょに、そのようすに目を見はり、ちいさいおうちの運命を思います。
ページをめくるたびに歴史が動いていくさまを、語りのリズムを感じさせる文字の独特なレイアウトとともに楽しみましょう。
日本語書名
「ちいさいおうち」
著者:Virginia Lee Burton
訳:いしいももこ
出版社:岩波書店
初版出版年:1965年
※上の画像は日本語翻訳版の表紙です。
モーリス・センダック(1928~2012年)が1963年に出版した作品です。日本では、『かいじゅうたちのいるところ』(神宮輝夫訳、冨山房1975)のタイトルで知られていますが、原題は、「かいじゅうたち」ではなくて、゛The Wild Things゛(野生のものたち、乱暴な荒れたものたち)です。
でも、「かいじゅう」を゛The Wild Things゛に置き換えてみると、まず、主人公のマックス自身が乱暴なものであったことに気がつきます。彼は、オオカミというWildなもののぬいぐるみを着て、大あばれをします。マックスに゛WILD THING!゛という、おかあさんのなかにも怒りがあります。マックスの大あばれのエネルギーが、夕ごはんぬきで閉じ込められた寝室に木を生やし、森や野原をつくったのかもしれません。長い航海をへて、たどりついた゛The Wild Things゛の島は、マックス自身の内面世界なのかもしれません。その島で、マックスは、゛The Wild Things゛を飼いならし、彼らの王様になって、「かいじゅうおどり」をするのです。
この絵本は、読者の子どものなかにも、たしかにある大きなエネルギーを引き出し、解放してくれます。「かいじゅうおどり」の大さわぎのあと、マックスも子どもたちも、ようやく、もとの寝室に帰ることができます。そして、そこには、まだあたたかい夕ごはんが待っていたのです。
日本語書名
「かいじゅうたちのいるところ」
著者:Maurice Sendak
訳:じんぐうてるお
出版社:冨山房
初版出版年:1975年