子ども文庫助成事業・文庫のひろば

竹下晴信氏コラム

(評論社社長、日本児童図書出版協会会長)

 最近の脳科学の研究成果によると、音声を聞き映像を見ているだけでは、脳の働きは表層の部分に限られ、動物と何らかわることなく、それに慣らされると人間性の劣化を招く、という。一方本を読む時は、脳の全体が深層部に到るまで活発に活動しており、読書がいかに大事であるか、と説いています。

 子供一人一人は独自の人格を具え、多様な可能性を秘めております。その子供それぞれに適切な本を届けることが最善とは思いますが、私達出版社は一人一人の個に対応するわけにはいかず、大勢の子を対象に出版活動を続けています。子供一人一人の要求に、本を通していかに応えていくのか、が私達の永遠の課題であります。
 いまの社会は、子供が読書に向き合うのには難しい状況にあります。テレビとかパソコンなど様々なメディアが多くの情報を流しています。それを受動的に享受するのに対し、読書は能動的に本と向きあう行為だからです。
 さて、日本児童図書出版協会(児童出協)という、1953年に子供の本の出版社13社が集って設立された団体があります。学校および公共図書館の選書目的のために作られた「優良児童図書綜合目録」の作成が、最初の事業でした。設立直後に5社加盟し、18社917点の本を収録した目録で、当時流通していた本の9割程を占めておりました。児童出協は現在43社、発信する解説付き<web児童図書目録>は3万8千点をこえております。
 それぞれの地域にあって、家庭文庫などで子供の読書活動を続けておられる皆様にお願いです。一人一人の子供のことをよくご存知の皆様には、この子にはこの本、あの子にはあの本というように、子供一人一人の傾向や興味に沿った適切な本を選んでいただきたいのです。そして今までの実践を踏まえて、伊藤忠記念財団のブックリストなどを参考に、ご自身の100冊のブックリストを作っていただけたらと思います。
 児童出協は、子供の読書推進を柱に活動しておりますが、読者に直接呼びかけるまで到っておりません。一方、青少年の育成を目的に設立された伊藤忠記念財団は、「すべての子どもたちに読書の喜びを」と願って、「子ども文庫助成事業」と「電子図書普及事業」を中心に活動を続けておられます。読者により近い所にまで拡げて子供の読書を応援するもので、敬意を表すと共に感謝しております。これからの同財団のご活動に期待をよせております。

竹下晴信 プロフィール

1941年生。学習院大学卒。
評論社社長。日本児童図書出版協会会長。
カナダ留学中に“CHRONICLES OF NARNIA”と出会い、それが契機となって、翻訳児童文学を柱に出版するに至った。